この日は、原住民の居留地を通過することになるため、
道路の入り口手前で、イエローカードの提出を求められる。
そのとき、ゲートの係官に、ここから400kmは止まってはダメだと言われる。
「彼らは走っているものを見ると、吹き矢で撃つからな」と、笑っていた。
全く笑えない笑いごとである。
いざ走り出し、原住民の居留エリア内を走っていた時のこと。
なんて運の悪いことだろうか、
250kmほど走ったところで、突然パンクしてしまう。
「止まるな」と言われてはいたものの、直さないことには走れないので、
止む無く停車して、パンク修理をする羽目に。
いつも通り、パンク修理をしていたわけだが、なんか嫌な感じがするのだ。
どことなく倦怠感があるというか、熱っぽいというか…。
変だな、と思いながらも、パンク修理をしていた。
が、明らかに熱が上がり始め、関節の痛みまで感じ始めた。
一応、アマゾンに入ってからは予防薬を飲み続けていた。
しかし、蚊には沢山刺されていたので…
ひょっとして、マラリア…?
この日は、これ以上進むのを諦めて、その場にテントを張った。
熱はかなり上がっているようだ。
とりあえず水だけは2リットルほどあったが、食料はパンが二つだけ。
「このまま死んでしまうのだろうか」
そう思いながら、テントで寝ていた。
そういえば、ゲートで係官がこう言っていたっけ――
「吹き矢で撃つからな」
周囲が薄暗くなってきた頃だった。
テントの外から、聞いたことのない言葉で話しかけられる。
外へ出てみると、上裸の男が、バカデカい刀を持って立っている。
原住民か、山賊だろう。
――そしてこれから、あのバカデカい刃で切り刻まれてしまうのだろう
そう思ってビビっている傍ら、その男はなにやら僕に話しかけているようだ。
しかし、ポルトガル語なら少しわかるが、
彼らが果たして何語を喋っているのか、全く分からない。
経験上、きっと「金を出せ」と言われているものだと考えた。
命あっての旅だ。
無駄な抵抗をしないで有り金全てを差し出したのだが、
何かが違うらしく首を振っている。
それじゃあ、何が目的なのか。
向こうも向こうで、意味分からないといった顔をしているので、
とりあえずジェスチャーで熱があるということを伝えてみると、
「待ってろ」というジェスチャーが返ってきた。
日本を出る前、最後に見た映画が、『食人族』という、
アマゾンの原住民を題材とした映画だった。
僕もこれから串刺しにされて、彼らの胃の中に入るんだと思いながら、
半分諦めながら寝ていた。
あれから2,3時間経った頃だった。
その男が戻ってきた。
いよいよ、串刺しにされる時がやってきた。
ところが、その男は刀の代わりに、
バナナ、パン、水、そしてやたらと不味い飲み物(薬?)を持って立っていた。
ようやく彼が、僕を串刺しにして食べようとしているのではない、
ということを理解した。
それからというもの、毎日色々な人が、代わる代わる食料を運んできてくれた。
彼らの持ってきた薬(?)のおかげか、熱も下がってきて、何とか死を免れた。
「感謝」の一言に尽きる。
体調も回復し、出発しようパンク修理をしていた時、
彼らが見送りに来てくれた。
お礼にお金を渡そうとしたのだが、
彼らは「そんなものいらない」と、一向に受け取ってくれない。
これまで、都合のいいことを言って近寄ってきては、
お金を要求するというパターンを何度も見てきて、人間不信に陥っていたが、
彼らは損得なしに、純粋な善意で看病してくれたということに、
泣けてきてしまったのを覚えている。

――4日間、ありがとう。
ちなみに、パンク修理は湿度が高すぎて、うまくパッチが粘着しない。
ガソリンスタンドで修理してもらったのだが、
ここアマゾンでは、パッチを熱着するのが常識のようだ。
